将門のことならこれ一冊!『平将門と天慶の乱』【著:乃至政彦】

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wata

ども!いばらき観光マイスターのwata(@wata_ibamemo)です!

茨城県が誇る英雄・平将門について網羅的に学べる一冊を発見しました!

じつはこれまで将門公のことをちゃんと調べたことがなかったんですよね。県内各地にちらばる伝承と岩井市(現坂東市)が平成5年(1993年)に発刊した『坂東の風雲児 平将門』を読んだくらい。ちなみにマンガです!!

それじゃあ、イカンなぁと思っていたところに出会ったのが乃至政彦さんの『平将門と天慶の乱』。現代語で書かれていて非常に読みやすくい上、ワクワクするような内容ばかり。

おすすめなのでご紹介します。電子書籍版もあるので気軽にゲットできますよ♪

概要

タイトル 平将門と天慶の乱
著者 乃至政彦
発行日 2019年4月10日
ページ数 338ページ

平将門の生涯とその時代背景がわかり、史料比較によるユニークな考察が楽しめる一冊です。

ページ数多めですが、歴史ものとしては読みやすかったです。合戦のあたりはテンポアップして臨場感がありました。毎日少しずつ読み進めるつもりなのにあっという間に読了。充実した時間でした!

特に面白いのは通説を検証し、持論を展開する部分です。将門公の年齢が通説よりも10歳近く若いという説には驚かされました。それだと20歳の頃に父を亡くし坂東に戻ってきたことになります。

国香や良兼から見たらかなりの若造。たぶん舐められていましたよね。いくらエリートで京都の有力者に仕えていた将門公であっても、やりにくかっただろうなぁ。

これまでの将門像を覆す内容が多数ありました。統治が不十分で兵が暴走するなど正直ガッカリすることもあったのですが。。一方で正義感が強く懐が広い面を確認できたのは救いでした。

八千代町の尾崎前山遺跡の製鉄炉や御厩について詳しく言及されていたのはなんだか嬉しかったですね。将門の乱の舞台は現在の茨城ですから茨城の地名が盛りだくさん。県内を散策する者にとってはたまらないネタが詰まっていました。

史実を追うだけでなく、将門公に関係した逸話にも触れられています。目次をご覧ください。

序章  怨霊伝説を検証する
第1章 蔭子・将門の少年期
第2章 遺領が招いた争族
第3章 平良兼・良正の襲撃と源護の策謀
第4章 追捕使・将門の勇躍と逆襲
第5章 坂東独立の風雲
第6章 将門、新皇に即位す
第7章 誰が新皇を殺したのか
第8章 敗者の声と勝者の宴
終章  神田明神と将門塚の興起

序章では世間的に知られている怨霊伝説、第8章と終章は将門記以外の文献に触れています。

怨霊伝説はまさに俗論をぶった斬り。痛快です。終章は結果的に将門公から少し外れた話になりましたが、極めて興味深い内容でした。将門塚と声聞師の切ない関係。ありそうですねぇ。

網羅的な一冊なので手元に置いとけば将門公についてかなり語れるようになります。2019年の発刊と新しいので、多くの研究を踏まえてる点もありがたいですね!

「新皇」は創作?

本書では『将門記』の作者とそれに影響を与えた人物であろう平良文について触れられています。良文についてはまったくと言っていいほど意識していませんでしたので大注目。後年の将門伝説にも少なからず影響しているでしょうね。

その『将門記』でもっとも謎めいているのが、八幡大菩薩の使いが巫女に憑依して宣託をしたこと。将門公に「新皇」の位を与えた事件です。

本書では『将門記』が全体的には将門公に肯定的でありながら、新皇の件以降は批判的と指摘しています。たしかに「新皇」は謀叛の意図が感じられますので日本人なら批判して当然でしょう。

また、同書の作者は時系列の入れ替えなどから将門公とその配下の一部を悪人とすることで恩賞目当ての京都方から坂東の人々を守ろうとしたのではないか、とも述べています。

すごく納得しました。もし、そういう意図があったなら特に不可思議な「託宣」は創作の可能性が高いと思うんですよね。

巫女の託宣は次のように書かれています。

「朕が位を蔭子・平将門に授け奉る。その位階を示す文書は左大臣正二位・菅原道真の霊魂が述べて伝えよう。このことは八幡大菩薩が八幡の軍を起こして、朕が位を授け奉る。いま、すべからく三二相の音楽をもって早くこれを迎え奉るべし」

「菅原道真」が気になります。なぜ唐突に道真公の名前が出るのでしょうか。

将門記が記されたのは将門公が討ち取られた天慶3年(940年)の6月とされています。それが事実でなくても道真公の位階が正二位とあるので正一位になる正暦4年(993年)以前でしょう。早く広めないと京都から野蛮な目的で進撃する者が出てしまうので、かなり急いで書かれたのでは想像します。

10世紀は道真公の怨霊説が広まった時期で、特に延長8年(930年)の内裏落雷事件は内裏に限らず京都に衝撃を与えました。同事件で道真公の怨霊化説が強く信じられるようになったといいます。つまり、天慶3年に道真公の名を持ち出したら朝廷や貴族はドン引き。道真公を知るものであれば「関わりたくない!」

ちなみに将門公が基盤としていた豊田郡、猿島郡には広大な飯沼があり、飯沼周辺は天神信仰が盛んでした。多くの天神社が鎮座しているだけでなく、道真公の遺骨を埋葬し、御神体とする大生郷天満宮や同天満宮の別当である安楽寺なども位置しています。双方は延長7年(929年)創建です。

その地で残党狩りなどすれば祟りは必至。そう思わせることで坂東の人々を保護しようとしたのではないでしょうか。もっとも、その道真公の霊魂が新皇即位を手助けしているのですが。。

wata

想像力を働かせるのはやっぱり楽しいですね。それにはいろいろな素材が必要。本書にはたくさん詰まっていると思いますので、ぜひご一読を〜!

【日本三天神】御廟天神の大生郷天満宮|常総市

【厄除けの古刹】元三大師 安樂寺|哀しい民話『お伽羅さま』|常総市

まとめ

この記事のまとめ

  • 俗説をぶった斬り。平将門について網羅的に学べる
  • ユニークな自説が楽しい。平将門の乱のキーマン平良文に触れられている
  • 将門記が記された思惑にかなり踏み込んでいる
この本の評価

wata

ども!いばらき観光マイスターのwata(@wata_ibamemo)です!

茨城県が誇る英雄・平将門について網羅的に学べる一冊を発見しました!

じつはこれまで将門公のことをちゃんと調べたことがなかったんですよね。県内各地にちらばる伝承と岩井市(現坂東市)が平成5年(1993年)に発刊した『坂東の風雲児 平将門』を読んだくらい。ちなみにマンガです!!

それじゃあ、イカンなぁと思っていたところに出会ったのが乃至政彦さんの『平将門と天慶の乱』。現代語で書かれていて非常に読みやすくい上、ワクワクするような内容ばかり。

おすすめなのでご紹介します。電子書籍版もあるので気軽にゲットできますよ♪

概要

タイトル 平将門と天慶の乱
著者 乃至政彦
発行日 2019年4月10日
ページ数 338ページ

平将門の生涯とその時代背景がわかり、史料比較によるユニークな考察が楽しめる一冊です。

ページ数多めですが、歴史ものとしては読みやすかったです。合戦のあたりはテンポアップして臨場感がありました。毎日少しずつ読み進めるつもりなのにあっという間に読了。充実した時間でした!

特に面白いのは通説を検証し、持論を展開する部分です。将門公の年齢が通説よりも10歳近く若いという説には驚かされました。それだと20歳の頃に父を亡くし坂東に戻ってきたことになります。

国香や良兼から見たらかなりの若造。たぶん舐められていましたよね。いくらエリートで京都の有力者に仕えていた将門公であっても、やりにくかっただろうなぁ。

これまでの将門像を覆す内容が多数ありました。統治が不十分で兵が暴走するなど正直ガッカリすることもあったのですが。。一方で正義感が強く懐が広い面を確認できたのは救いでした。

八千代町の尾崎前山遺跡の製鉄炉や御厩について詳しく言及されていたのはなんだか嬉しかったですね。将門の乱の舞台は現在の茨城ですから茨城の地名が盛りだくさん。県内を散策する者にとってはたまらないネタが詰まっていました。

史実を追うだけでなく、将門公に関係した逸話にも触れられています。目次をご覧ください。

序章  怨霊伝説を検証する
第1章 蔭子・将門の少年期
第2章 遺領が招いた争族
第3章 平良兼・良正の襲撃と源護の策謀
第4章 追捕使・将門の勇躍と逆襲
第5章 坂東独立の風雲
第6章 将門、新皇に即位す
第7章 誰が新皇を殺したのか
第8章 敗者の声と勝者の宴
終章  神田明神と将門塚の興起

序章では世間的に知られている怨霊伝説、第8章と終章は将門記以外の文献に触れています。

怨霊伝説はまさに俗論をぶった斬り。痛快です。終章は結果的に将門公から少し外れた話になりましたが、極めて興味深い内容でした。将門塚と声聞師の切ない関係。ありそうですねぇ。

網羅的な一冊なので手元に置いとけば将門公についてかなり語れるようになります。2019年の発刊と新しいので、多くの研究を踏まえてる点もありがたいですね!

「新皇」は創作?

本書では『将門記』の作者とそれに影響を与えた人物であろう平良文について触れられています。良文についてはまったくと言っていいほど意識していませんでしたので大注目。後年の将門伝説にも少なからず影響しているでしょうね。

その『将門記』でもっとも謎めいているのが、八幡大菩薩の使いが巫女に憑依して宣託をしたこと。将門公に「新皇」の位を与えた事件です。

本書では『将門記』が全体的には将門公に肯定的でありながら、新皇の件以降は批判的と指摘しています。たしかに「新皇」は謀叛の意図が感じられますので日本人なら批判して当然でしょう。

また、同書の作者は時系列の入れ替えなどから将門公とその配下の一部を悪人とすることで恩賞目当ての京都方から坂東の人々を守ろうとしたのではないか、とも述べています。

すごく納得しました。もし、そういう意図があったなら特に不可思議な「託宣」は創作の可能性が高いと思うんですよね。

巫女の託宣は次のように書かれています。

「朕が位を蔭子・平将門に授け奉る。その位階を示す文書は左大臣正二位・菅原道真の霊魂が述べて伝えよう。このことは八幡大菩薩が八幡の軍を起こして、朕が位を授け奉る。いま、すべからく三二相の音楽をもって早くこれを迎え奉るべし」

「菅原道真」が気になります。なぜ唐突に道真公の名前が出るのでしょうか。

将門記が記されたのは将門公が討ち取られた天慶3年(940年)の6月とされています。それが事実でなくても道真公の位階が正二位とあるので正一位になる正暦4年(993年)以前でしょう。早く広めないと京都から野蛮な目的で進撃する者が出てしまうので、かなり急いで書かれたのでは想像します。

10世紀は道真公の怨霊説が広まった時期で、特に延長8年(930年)の内裏落雷事件は内裏に限らず京都に衝撃を与えました。同事件で道真公の怨霊化説が強く信じられるようになったといいます。つまり、天慶3年に道真公の名を持ち出したら朝廷や貴族はドン引き。道真公を知るものであれば「関わりたくない!」

ちなみに将門公が基盤としていた豊田郡、猿島郡には広大な飯沼があり、飯沼周辺は天神信仰が盛んでした。多くの天神社が鎮座しているだけでなく、道真公の遺骨を埋葬し、御神体とする大生郷天満宮や同天満宮の別当である安楽寺なども位置しています。双方は延長7年(929年)創建です。

その地で残党狩りなどすれば祟りは必至。そう思わせることで坂東の人々を保護しようとしたのではないでしょうか。もっとも、その道真公の霊魂が新皇即位を手助けしているのですが。。

wata

想像力を働かせるのはやっぱり楽しいですね。それにはいろいろな素材が必要。本書にはたくさん詰まっていると思いますので、ぜひご一読を〜!

【日本三天神】御廟天神の大生郷天満宮|常総市

【厄除けの古刹】元三大師 安樂寺|哀しい民話『お伽羅さま』|常総市

まとめ

この記事のまとめ

  • 俗説をぶった斬り。平将門について網羅的に学べる
  • ユニークな自説が楽しい。平将門の乱のキーマン平良文に触れられている
  • 将門記が記された思惑にかなり踏み込んでいる
読みやすさ
(5.0)
面白さ
(5.0)
デザインの美しさ
(3.0)
コストパフォーマンス
(5.0)
オリジナリティ
(5.0)
総合評価
(4.5)

wata

ども!いばらき観光マイスターのwata(@wata_ibamemo)です!

茨城県が誇る英雄・平将門について網羅的に学べる一冊を発見しました!

じつはこれまで将門公のことをちゃんと調べたことがなかったんですよね。県内各地にちらばる伝承と岩井市(現坂東市)が平成5年(1993年)に発刊した『坂東の風雲児 平将門』を読んだくらい。ちなみにマンガです!!

それじゃあ、イカンなぁと思っていたところに出会ったのが乃至政彦さんの『平将門と天慶の乱』。現代語で書かれていて非常に読みやすくい上、ワクワクするような内容ばかり。

おすすめなのでご紹介します。電子書籍版もあるので気軽にゲットできますよ♪

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タイトル 平将門と天慶の乱
著者 乃至政彦
発行日 2019年4月10日
ページ数 338ページ

平将門の生涯とその時代背景がわかり、史料比較によるユニークな考察が楽しめる一冊です。

ページ数多めですが、歴史ものとしては読みやすかったです。合戦のあたりはテンポアップして臨場感がありました。毎日少しずつ読み進めるつもりなのにあっという間に読了。充実した時間でした!

特に面白いのは通説を検証し、持論を展開する部分です。将門公の年齢が通説よりも10歳近く若いという説には驚かされました。それだと20歳の頃に父を亡くし坂東に戻ってきたことになります。

国香や良兼から見たらかなりの若造。たぶん舐められていましたよね。いくらエリートで京都の有力者に仕えていた将門公であっても、やりにくかっただろうなぁ。

これまでの将門像を覆す内容が多数ありました。統治が不十分で兵が暴走するなど正直ガッカリすることもあったのですが。。一方で正義感が強く懐が広い面を確認できたのは救いでした。

八千代町の尾崎前山遺跡の製鉄炉や御厩について詳しく言及されていたのはなんだか嬉しかったですね。将門の乱の舞台は現在の茨城ですから茨城の地名が盛りだくさん。県内を散策する者にとってはたまらないネタが詰まっていました。

史実を追うだけでなく、将門公に関係した逸話にも触れられています。目次をご覧ください。

序章  怨霊伝説を検証する
第1章 蔭子・将門の少年期
第2章 遺領が招いた争族
第3章 平良兼・良正の襲撃と源護の策謀
第4章 追捕使・将門の勇躍と逆襲
第5章 坂東独立の風雲
第6章 将門、新皇に即位す
第7章 誰が新皇を殺したのか
第8章 敗者の声と勝者の宴
終章  神田明神と将門塚の興起

序章では世間的に知られている怨霊伝説、第8章と終章は将門記以外の文献に触れています。

怨霊伝説はまさに俗論をぶった斬り。痛快です。終章は結果的に将門公から少し外れた話になりましたが、極めて興味深い内容でした。将門塚と声聞師の切ない関係。ありそうですねぇ。

網羅的な一冊なので手元に置いとけば将門公についてかなり語れるようになります。2019年の発刊と新しいので、多くの研究を踏まえてる点もありがたいですね!

「新皇」は創作?

本書では『将門記』の作者とそれに影響を与えた人物であろう平良文について触れられています。良文についてはまったくと言っていいほど意識していませんでしたので大注目。後年の将門伝説にも少なからず影響しているでしょうね。

その『将門記』でもっとも謎めいているのが、八幡大菩薩の使いが巫女に憑依して宣託をしたこと。将門公に「新皇」の位を与えた事件です。

本書では『将門記』が全体的には将門公に肯定的でありながら、新皇の件以降は批判的と指摘しています。たしかに「新皇」は謀叛の意図が感じられますので日本人なら批判して当然でしょう。

また、同書の作者は時系列の入れ替えなどから将門公とその配下の一部を悪人とすることで恩賞目当ての京都方から坂東の人々を守ろうとしたのではないか、とも述べています。

すごく納得しました。もし、そういう意図があったなら特に不可思議な「託宣」は創作の可能性が高いと思うんですよね。

巫女の託宣は次のように書かれています。

「朕が位を蔭子・平将門に授け奉る。その位階を示す文書は左大臣正二位・菅原道真の霊魂が述べて伝えよう。このことは八幡大菩薩が八幡の軍を起こして、朕が位を授け奉る。いま、すべからく三二相の音楽をもって早くこれを迎え奉るべし」

「菅原道真」が気になります。なぜ唐突に道真公の名前が出るのでしょうか。

将門記が記されたのは将門公が討ち取られた天慶3年(940年)の6月とされています。それが事実でなくても道真公の位階が正二位とあるので正一位になる正暦4年(993年)以前でしょう。早く広めないと京都から野蛮な目的で進撃する者が出てしまうので、かなり急いで書かれたのでは想像します。

10世紀は道真公の怨霊説が広まった時期で、特に延長8年(930年)の内裏落雷事件は内裏に限らず京都に衝撃を与えました。同事件で道真公の怨霊化説が強く信じられるようになったといいます。つまり、天慶3年に道真公の名を持ち出したら朝廷や貴族はドン引き。道真公を知るものであれば「関わりたくない!」

ちなみに将門公が基盤としていた豊田郡、猿島郡には広大な飯沼があり、飯沼周辺は天神信仰が盛んでした。多くの天神社が鎮座しているだけでなく、道真公の遺骨を埋葬し、御神体とする大生郷天満宮や同天満宮の別当である安楽寺なども位置しています。双方は延長7年(929年)創建です。

その地で残党狩りなどすれば祟りは必至。そう思わせることで坂東の人々を保護しようとしたのではないでしょうか。もっとも、その道真公の霊魂が新皇即位を手助けしているのですが。。

wata

想像力を働かせるのはやっぱり楽しいですね。それにはいろいろな素材が必要。本書にはたくさん詰まっていると思いますので、ぜひご一読を〜!

【日本三天神】御廟天神の大生郷天満宮|常総市

【厄除けの古刹】元三大師 安樂寺|哀しい民話『お伽羅さま』|常総市

まとめ

この記事のまとめ

  • 俗説をぶった斬り。平将門について網羅的に学べる
  • ユニークな自説が楽しい。平将門の乱のキーマン平良文に触れられている
  • 将門記が記された思惑にかなり踏み込んでいる
この本の評価
読みやすさ
(5.0)
面白さ
(5.0)
デザインの美しさ
(3.0)
コストパフォーマンス
(5.0)
オリジナリティ
(5.0)
総合評価
(4.5)

wata

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じつはこれまで将門公のことをちゃんと調べたことがなかったんですよね。県内各地にちらばる伝承と岩井市(現坂東市)が平成5年(1993年)に発刊した『坂東の風雲児 平将門』を読んだくらい。ちなみにマンガです!!

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概要

タイトル 平将門と天慶の乱
著者 乃至政彦
発行日 2019年4月10日
ページ数 338ページ

平将門の生涯とその時代背景がわかり、史料比較によるユニークな考察が楽しめる一冊です。

ページ数多めですが、歴史ものとしては読みやすかったです。合戦のあたりはテンポアップして臨場感がありました。毎日少しずつ読み進めるつもりなのにあっという間に読了。充実した時間でした!

特に面白いのは通説を検証し、持論を展開する部分です。将門公の年齢が通説よりも10歳近く若いという説には驚かされました。それだと20歳の頃に父を亡くし坂東に戻ってきたことになります。

国香や良兼から見たらかなりの若造。たぶん舐められていましたよね。いくらエリートで京都の有力者に仕えていた将門公であっても、やりにくかっただろうなぁ。

これまでの将門像を覆す内容が多数ありました。統治が不十分で兵が暴走するなど正直ガッカリすることもあったのですが。。一方で正義感が強く懐が広い面を確認できたのは救いでした。

八千代町の尾崎前山遺跡の製鉄炉や御厩について詳しく言及されていたのはなんだか嬉しかったですね。将門の乱の舞台は現在の茨城ですから茨城の地名が盛りだくさん。県内を散策する者にとってはたまらないネタが詰まっていました。

史実を追うだけでなく、将門公に関係した逸話にも触れられています。目次をご覧ください。

序章  怨霊伝説を検証する
第1章 蔭子・将門の少年期
第2章 遺領が招いた争族
第3章 平良兼・良正の襲撃と源護の策謀
第4章 追捕使・将門の勇躍と逆襲
第5章 坂東独立の風雲
第6章 将門、新皇に即位す
第7章 誰が新皇を殺したのか
第8章 敗者の声と勝者の宴
終章  神田明神と将門塚の興起

序章では世間的に知られている怨霊伝説、第8章と終章は将門記以外の文献に触れています。

怨霊伝説はまさに俗論をぶった斬り。痛快です。終章は結果的に将門公から少し外れた話になりましたが、極めて興味深い内容でした。将門塚と声聞師の切ない関係。ありそうですねぇ。

網羅的な一冊なので手元に置いとけば将門公についてかなり語れるようになります。2019年の発刊と新しいので、多くの研究を踏まえてる点もありがたいですね!

「新皇」は創作?

本書では『将門記』の作者とそれに影響を与えた人物であろう平良文について触れられています。良文についてはまったくと言っていいほど意識していませんでしたので大注目。後年の将門伝説にも少なからず影響しているでしょうね。

その『将門記』でもっとも謎めいているのが、八幡大菩薩の使いが巫女に憑依して宣託をしたこと。将門公に「新皇」の位を与えた事件です。

本書では『将門記』が全体的には将門公に肯定的でありながら、新皇の件以降は批判的と指摘しています。たしかに「新皇」は謀叛の意図が感じられますので日本人なら批判して当然でしょう。

また、同書の作者は時系列の入れ替えなどから将門公とその配下の一部を悪人とすることで恩賞目当ての京都方から坂東の人々を守ろうとしたのではないか、とも述べています。

すごく納得しました。もし、そういう意図があったなら特に不可思議な「託宣」は創作の可能性が高いと思うんですよね。

巫女の託宣は次のように書かれています。

「朕が位を蔭子・平将門に授け奉る。その位階を示す文書は左大臣正二位・菅原道真の霊魂が述べて伝えよう。このことは八幡大菩薩が八幡の軍を起こして、朕が位を授け奉る。いま、すべからく三二相の音楽をもって早くこれを迎え奉るべし」

「菅原道真」が気になります。なぜ唐突に道真公の名前が出るのでしょうか。

将門記が記されたのは将門公が討ち取られた天慶3年(940年)の6月とされています。それが事実でなくても道真公の位階が正二位とあるので正一位になる正暦4年(993年)以前でしょう。早く広めないと京都から野蛮な目的で進撃する者が出てしまうので、かなり急いで書かれたのでは想像します。

10世紀は道真公の怨霊説が広まった時期で、特に延長8年(930年)の内裏落雷事件は内裏に限らず京都に衝撃を与えました。同事件で道真公の怨霊化説が強く信じられるようになったといいます。つまり、天慶3年に道真公の名を持ち出したら朝廷や貴族はドン引き。道真公を知るものであれば「関わりたくない!」

ちなみに将門公が基盤としていた豊田郡、猿島郡には広大な飯沼があり、飯沼周辺は天神信仰が盛んでした。多くの天神社が鎮座しているだけでなく、道真公の遺骨を埋葬し、御神体とする大生郷天満宮や同天満宮の別当である安楽寺なども位置しています。双方は延長7年(929年)創建です。

その地で残党狩りなどすれば祟りは必至。そう思わせることで坂東の人々を保護しようとしたのではないでしょうか。もっとも、その道真公の霊魂が新皇即位を手助けしているのですが。。

wata

想像力を働かせるのはやっぱり楽しいですね。それにはいろいろな素材が必要。本書にはたくさん詰まっていると思いますので、ぜひご一読を〜!

【日本三天神】御廟天神の大生郷天満宮|常総市

【厄除けの古刹】元三大師 安樂寺|哀しい民話『お伽羅さま』|常総市

まとめ

この記事のまとめ

  • 俗説をぶった斬り。平将門について網羅的に学べる
  • ユニークな自説が楽しい。平将門の乱のキーマン平良文に触れられている
  • 将門記が記された思惑にかなり踏み込んでいる
この本の評価
読みやすさ
(5.0)
面白さ
(5.0)
デザインの美しさ
(3.0)
コストパフォーマンス
(5.0)
オリジナリティ
(5.0)
総合評価
(4.5)

wata

ども!いばらき観光マイスターのwata(@wata_ibamemo)です!

茨城県が誇る英雄・平将門について網羅的に学べる一冊を発見しました!

じつはこれまで将門公のことをちゃんと調べたことがなかったんですよね。県内各地にちらばる伝承と岩井市(現坂東市)が平成5年(1993年)に発刊した『坂東の風雲児 平将門』を読んだくらい。ちなみにマンガです!!

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タイトル 平将門と天慶の乱
著者 乃至政彦
発行日 2019年4月10日
ページ数 338ページ

平将門の生涯とその時代背景がわかり、史料比較によるユニークな考察が楽しめる一冊です。

ページ数多めですが、歴史ものとしては読みやすかったです。合戦のあたりはテンポアップして臨場感がありました。毎日少しずつ読み進めるつもりなのにあっという間に読了。充実した時間でした!

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国香や良兼から見たらかなりの若造。たぶん舐められていましたよね。いくらエリートで京都の有力者に仕えていた将門公であっても、やりにくかっただろうなぁ。

これまでの将門像を覆す内容が多数ありました。統治が不十分で兵が暴走するなど正直ガッカリすることもあったのですが。。一方で正義感が強く懐が広い面を確認できたのは救いでした。

八千代町の尾崎前山遺跡の製鉄炉や御厩について詳しく言及されていたのはなんだか嬉しかったですね。将門の乱の舞台は現在の茨城ですから茨城の地名が盛りだくさん。県内を散策する者にとってはたまらないネタが詰まっていました。

史実を追うだけでなく、将門公に関係した逸話にも触れられています。目次をご覧ください。

序章  怨霊伝説を検証する
第1章 蔭子・将門の少年期
第2章 遺領が招いた争族
第3章 平良兼・良正の襲撃と源護の策謀
第4章 追捕使・将門の勇躍と逆襲
第5章 坂東独立の風雲
第6章 将門、新皇に即位す
第7章 誰が新皇を殺したのか
第8章 敗者の声と勝者の宴
終章  神田明神と将門塚の興起

序章では世間的に知られている怨霊伝説、第8章と終章は将門記以外の文献に触れています。

怨霊伝説はまさに俗論をぶった斬り。痛快です。終章は結果的に将門公から少し外れた話になりましたが、極めて興味深い内容でした。将門塚と声聞師の切ない関係。ありそうですねぇ。

網羅的な一冊なので手元に置いとけば将門公についてかなり語れるようになります。2019年の発刊と新しいので、多くの研究を踏まえてる点もありがたいですね!

「新皇」は創作?

本書では『将門記』の作者とそれに影響を与えた人物であろう平良文について触れられています。良文についてはまったくと言っていいほど意識していませんでしたので大注目。後年の将門伝説にも少なからず影響しているでしょうね。

その『将門記』でもっとも謎めいているのが、八幡大菩薩の使いが巫女に憑依して宣託をしたこと。将門公に「新皇」の位を与えた事件です。

本書では『将門記』が全体的には将門公に肯定的でありながら、新皇の件以降は批判的と指摘しています。たしかに「新皇」は謀叛の意図が感じられますので日本人なら批判して当然でしょう。

また、同書の作者は時系列の入れ替えなどから将門公とその配下の一部を悪人とすることで恩賞目当ての京都方から坂東の人々を守ろうとしたのではないか、とも述べています。

すごく納得しました。もし、そういう意図があったなら特に不可思議な「託宣」は創作の可能性が高いと思うんですよね。

巫女の託宣は次のように書かれています。

「朕が位を蔭子・平将門に授け奉る。その位階を示す文書は左大臣正二位・菅原道真の霊魂が述べて伝えよう。このことは八幡大菩薩が八幡の軍を起こして、朕が位を授け奉る。いま、すべからく三二相の音楽をもって早くこれを迎え奉るべし」

「菅原道真」が気になります。なぜ唐突に道真公の名前が出るのでしょうか。

将門記が記されたのは将門公が討ち取られた天慶3年(940年)の6月とされています。それが事実でなくても道真公の位階が正二位とあるので正一位になる正暦4年(993年)以前でしょう。早く広めないと京都から野蛮な目的で進撃する者が出てしまうので、かなり急いで書かれたのでは想像します。

10世紀は道真公の怨霊説が広まった時期で、特に延長8年(930年)の内裏落雷事件は内裏に限らず京都に衝撃を与えました。同事件で道真公の怨霊化説が強く信じられるようになったといいます。つまり、天慶3年に道真公の名を持ち出したら朝廷や貴族はドン引き。道真公を知るものであれば「関わりたくない!」

ちなみに将門公が基盤としていた豊田郡、猿島郡には広大な飯沼があり、飯沼周辺は天神信仰が盛んでした。多くの天神社が鎮座しているだけでなく、道真公の遺骨を埋葬し、御神体とする大生郷天満宮や同天満宮の別当である安楽寺なども位置しています。双方は延長7年(929年)創建です。

その地で残党狩りなどすれば祟りは必至。そう思わせることで坂東の人々を保護しようとしたのではないでしょうか。もっとも、その道真公の霊魂が新皇即位を手助けしているのですが。。

wata

想像力を働かせるのはやっぱり楽しいですね。それにはいろいろな素材が必要。本書にはたくさん詰まっていると思いますので、ぜひご一読を〜!

【日本三天神】御廟天神の大生郷天満宮|常総市

【厄除けの古刹】元三大師 安樂寺|哀しい民話『お伽羅さま』|常総市

まとめ

この記事のまとめ

  • 俗説をぶった斬り。平将門について網羅的に学べる
  • ユニークな自説が楽しい。平将門の乱のキーマン平良文に触れられている
  • 将門記が記された思惑にかなり踏み込んでいる
この本の評価
読みやすさ
(5.0)
面白さ
(5.0)
デザインの美しさ
(3.0)
コストパフォーマンス
(5.0)
オリジナリティ
(5.0)
総合評価
(4.5)

wata

ども!いばらき観光マイスターのwata(@wata_ibamemo)です!

茨城県が誇る英雄・平将門について網羅的に学べる一冊を発見しました!

じつはこれまで将門公のことをちゃんと調べたことがなかったんですよね。県内各地にちらばる伝承と岩井市(現坂東市)が平成5年(1993年)に発刊した『坂東の風雲児 平将門』を読んだくらい。ちなみにマンガです!!

それじゃあ、イカンなぁと思っていたところに出会ったのが乃至政彦さんの『平将門と天慶の乱』。現代語で書かれていて非常に読みやすくい上、ワクワクするような内容ばかり。

おすすめなのでご紹介します。電子書籍版もあるので気軽にゲットできますよ♪

概要

タイトル 平将門と天慶の乱
著者 乃至政彦
発行日 2019年4月10日
ページ数 338ページ

平将門の生涯とその時代背景がわかり、史料比較によるユニークな考察が楽しめる一冊です。

ページ数多めですが、歴史ものとしては読みやすかったです。合戦のあたりはテンポアップして臨場感がありました。毎日少しずつ読み進めるつもりなのにあっという間に読了。充実した時間でした!

特に面白いのは通説を検証し、持論を展開する部分です。将門公の年齢が通説よりも10歳近く若いという説には驚かされました。それだと20歳の頃に父を亡くし坂東に戻ってきたことになります。

国香や良兼から見たらかなりの若造。たぶん舐められていましたよね。いくらエリートで京都の有力者に仕えていた将門公であっても、やりにくかっただろうなぁ。

これまでの将門像を覆す内容が多数ありました。統治が不十分で兵が暴走するなど正直ガッカリすることもあったのですが。。一方で正義感が強く懐が広い面を確認できたのは救いでした。

八千代町の尾崎前山遺跡の製鉄炉や御厩について詳しく言及されていたのはなんだか嬉しかったですね。将門の乱の舞台は現在の茨城ですから茨城の地名が盛りだくさん。県内を散策する者にとってはたまらないネタが詰まっていました。

史実を追うだけでなく、将門公に関係した逸話にも触れられています。目次をご覧ください。

序章  怨霊伝説を検証する
第1章 蔭子・将門の少年期
第2章 遺領が招いた争族
第3章 平良兼・良正の襲撃と源護の策謀
第4章 追捕使・将門の勇躍と逆襲
第5章 坂東独立の風雲
第6章 将門、新皇に即位す
第7章 誰が新皇を殺したのか
第8章 敗者の声と勝者の宴
終章  神田明神と将門塚の興起

序章では世間的に知られている怨霊伝説、第8章と終章は将門記以外の文献に触れています。

怨霊伝説はまさに俗論をぶった斬り。痛快です。終章は結果的に将門公から少し外れた話になりましたが、極めて興味深い内容でした。将門塚と声聞師の切ない関係。ありそうですねぇ。

網羅的な一冊なので手元に置いとけば将門公についてかなり語れるようになります。2019年の発刊と新しいので、多くの研究を踏まえてる点もありがたいですね!

「新皇」は創作?

本書では『将門記』の作者とそれに影響を与えた人物であろう平良文について触れられています。良文についてはまったくと言っていいほど意識していませんでしたので大注目。後年の将門伝説にも少なからず影響しているでしょうね。

その『将門記』でもっとも謎めいているのが、八幡大菩薩の使いが巫女に憑依して宣託をしたこと。将門公に「新皇」の位を与えた事件です。

本書では『将門記』が全体的には将門公に肯定的でありながら、新皇の件以降は批判的と指摘しています。たしかに「新皇」は謀叛の意図が感じられますので日本人なら批判して当然でしょう。

また、同書の作者は時系列の入れ替えなどから将門公とその配下の一部を悪人とすることで恩賞目当ての京都方から坂東の人々を守ろうとしたのではないか、とも述べています。

すごく納得しました。もし、そういう意図があったなら特に不可思議な「託宣」は創作の可能性が高いと思うんですよね。

巫女の託宣は次のように書かれています。

「朕が位を蔭子・平将門に授け奉る。その位階を示す文書は左大臣正二位・菅原道真の霊魂が述べて伝えよう。このことは八幡大菩薩が八幡の軍を起こして、朕が位を授け奉る。いま、すべからく三二相の音楽をもって早くこれを迎え奉るべし」

「菅原道真」が気になります。なぜ唐突に道真公の名前が出るのでしょうか。

将門記が記されたのは将門公が討ち取られた天慶3年(940年)の6月とされています。それが事実でなくても道真公の位階が正二位とあるので正一位になる正暦4年(993年)以前でしょう。早く広めないと京都から野蛮な目的で進撃する者が出てしまうので、かなり急いで書かれたのでは想像します。

10世紀は道真公の怨霊説が広まった時期で、特に延長8年(930年)の内裏落雷事件は内裏に限らず京都に衝撃を与えました。同事件で道真公の怨霊化説が強く信じられるようになったといいます。つまり、天慶3年に道真公の名を持ち出したら朝廷や貴族はドン引き。道真公を知るものであれば「関わりたくない!」

ちなみに将門公が基盤としていた豊田郡、猿島郡には広大な飯沼があり、飯沼周辺は天神信仰が盛んでした。多くの天神社が鎮座しているだけでなく、道真公の遺骨を埋葬し、御神体とする大生郷天満宮や同天満宮の別当である安楽寺なども位置しています。双方は延長7年(929年)創建です。

その地で残党狩りなどすれば祟りは必至。そう思わせることで坂東の人々を保護しようとしたのではないでしょうか。もっとも、その道真公の霊魂が新皇即位を手助けしているのですが。。

wata

想像力を働かせるのはやっぱり楽しいですね。それにはいろいろな素材が必要。本書にはたくさん詰まっていると思いますので、ぜひご一読を〜!

【日本三天神】御廟天神の大生郷天満宮|常総市

【厄除けの古刹】元三大師 安樂寺|哀しい民話『お伽羅さま』|常総市

まとめ

この記事のまとめ

  • 俗説をぶった斬り。平将門について網羅的に学べる
  • ユニークな自説が楽しい。平将門の乱のキーマン平良文に触れられている
  • 将門記が記された思惑にかなり踏み込んでいる
この本の評価
読みやすさ
(5.0)
面白さ
(5.0)
デザインの美しさ
(3.0)
コストパフォーマンス
(5.0)
オリジナリティ
(5.0)
総合評価
(4.5)

wata

ども!いばらき観光マイスターのwata(@wata_ibamemo)です!

茨城県が誇る英雄・平将門について網羅的に学べる一冊を発見しました!

じつはこれまで将門公のことをちゃんと調べたことがなかったんですよね。県内各地にちらばる伝承と岩井市(現坂東市)が平成5年(1993年)に発刊した『坂東の風雲児 平将門』を読んだくらい。ちなみにマンガです!!

それじゃあ、イカンなぁと思っていたところに出会ったのが乃至政彦さんの『平将門と天慶の乱』。現代語で書かれていて非常に読みやすくい上、ワクワクするような内容ばかり。

おすすめなのでご紹介します。電子書籍版もあるので気軽にゲットできますよ♪

概要

タイトル 平将門と天慶の乱
著者 乃至政彦
発行日 2019年4月10日
ページ数 338ページ

平将門の生涯とその時代背景がわかり、史料比較によるユニークな考察が楽しめる一冊です。

ページ数多めですが、歴史ものとしては読みやすかったです。合戦のあたりはテンポアップして臨場感がありました。毎日少しずつ読み進めるつもりなのにあっという間に読了。充実した時間でした!

特に面白いのは通説を検証し、持論を展開する部分です。将門公の年齢が通説よりも10歳近く若いという説には驚かされました。それだと20歳の頃に父を亡くし坂東に戻ってきたことになります。

国香や良兼から見たらかなりの若造。たぶん舐められていましたよね。いくらエリートで京都の有力者に仕えていた将門公であっても、やりにくかっただろうなぁ。

これまでの将門像を覆す内容が多数ありました。統治が不十分で兵が暴走するなど正直ガッカリすることもあったのですが。。一方で正義感が強く懐が広い面を確認できたのは救いでした。

八千代町の尾崎前山遺跡の製鉄炉や御厩について詳しく言及されていたのはなんだか嬉しかったですね。将門の乱の舞台は現在の茨城ですから茨城の地名が盛りだくさん。県内を散策する者にとってはたまらないネタが詰まっていました。

史実を追うだけでなく、将門公に関係した逸話にも触れられています。目次をご覧ください。

序章  怨霊伝説を検証する
第1章 蔭子・将門の少年期
第2章 遺領が招いた争族
第3章 平良兼・良正の襲撃と源護の策謀
第4章 追捕使・将門の勇躍と逆襲
第5章 坂東独立の風雲
第6章 将門、新皇に即位す
第7章 誰が新皇を殺したのか
第8章 敗者の声と勝者の宴
終章  神田明神と将門塚の興起

序章では世間的に知られている怨霊伝説、第8章と終章は将門記以外の文献に触れています。

怨霊伝説はまさに俗論をぶった斬り。痛快です。終章は結果的に将門公から少し外れた話になりましたが、極めて興味深い内容でした。将門塚と声聞師の切ない関係。ありそうですねぇ。

網羅的な一冊なので手元に置いとけば将門公についてかなり語れるようになります。2019年の発刊と新しいので、多くの研究を踏まえてる点もありがたいですね!

「新皇」は創作?

本書では『将門記』の作者とそれに影響を与えた人物であろう平良文について触れられています。良文についてはまったくと言っていいほど意識していませんでしたので大注目。後年の将門伝説にも少なからず影響しているでしょうね。

その『将門記』でもっとも謎めいているのが、八幡大菩薩の使いが巫女に憑依して宣託をしたこと。将門公に「新皇」の位を与えた事件です。

本書では『将門記』が全体的には将門公に肯定的でありながら、新皇の件以降は批判的と指摘しています。たしかに「新皇」は謀叛の意図が感じられますので日本人なら批判して当然でしょう。

また、同書の作者は時系列の入れ替えなどから将門公とその配下の一部を悪人とすることで恩賞目当ての京都方から坂東の人々を守ろうとしたのではないか、とも述べています。

すごく納得しました。もし、そういう意図があったなら特に不可思議な「託宣」は創作の可能性が高いと思うんですよね。

巫女の託宣は次のように書かれています。

「朕が位を蔭子・平将門に授け奉る。その位階を示す文書は左大臣正二位・菅原道真の霊魂が述べて伝えよう。このことは八幡大菩薩が八幡の軍を起こして、朕が位を授け奉る。いま、すべからく三二相の音楽をもって早くこれを迎え奉るべし」

「菅原道真」が気になります。なぜ唐突に道真公の名前が出るのでしょうか。

将門記が記されたのは将門公が討ち取られた天慶3年(940年)の6月とされています。それが事実でなくても道真公の位階が正二位とあるので正一位になる正暦4年(993年)以前でしょう。早く広めないと京都から野蛮な目的で進撃する者が出てしまうので、かなり急いで書かれたのでは想像します。

10世紀は道真公の怨霊説が広まった時期で、特に延長8年(930年)の内裏落雷事件は内裏に限らず京都に衝撃を与えました。同事件で道真公の怨霊化説が強く信じられるようになったといいます。つまり、天慶3年に道真公の名を持ち出したら朝廷や貴族はドン引き。道真公を知るものであれば「関わりたくない!」

ちなみに将門公が基盤としていた豊田郡、猿島郡には広大な飯沼があり、飯沼周辺は天神信仰が盛んでした。多くの天神社が鎮座しているだけでなく、道真公の遺骨を埋葬し、御神体とする大生郷天満宮や同天満宮の別当である安楽寺なども位置しています。双方は延長7年(929年)創建です。

その地で残党狩りなどすれば祟りは必至。そう思わせることで坂東の人々を保護しようとしたのではないでしょうか。もっとも、その道真公の霊魂が新皇即位を手助けしているのですが。。

wata

想像力を働かせるのはやっぱり楽しいですね。それにはいろいろな素材が必要。本書にはたくさん詰まっていると思いますので、ぜひご一読を〜!

【日本三天神】御廟天神の大生郷天満宮|常総市

【厄除けの古刹】元三大師 安樂寺|哀しい民話『お伽羅さま』|常総市

まとめ

この記事のまとめ

  • 俗説をぶった斬り。平将門について網羅的に学べる
  • ユニークな自説が楽しい。平将門の乱のキーマン平良文に触れられている
  • 将門記が記された思惑にかなり踏み込んでいる
この本の評価
読みやすさ
(5.0)
面白さ
(5.0)
デザインの美しさ
(3.0)
コストパフォーマンス
(5.0)
オリジナリティ
(5.0)
総合評価
(4.5)
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