【著:田中章雄】ブランド総合研究所の本を読んで魅力度ランキングを考える

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wata

ども!いばらき観光マイスターのwata(@wata_ibamemo)です!

民間のコンサルティング会社 ブランド総合研究所(以下:ブランド研)の調査によると、茨城県は都道府県別の魅力度ランキングで最下位。それも2018年まで6年連続です。

この結果に対して、県民からさまざまな声が上がっています。「そんなはずはない」「ランキングはデタラメ」「むしろ最下位のほうが目立つのでいい」「やっぱり」などなど。

わたしはまったく気にしていませんが「結果だけでは納得できない」というご意見はよくわかります。

そこで、ブランド研の代表取締役社長 田中章雄さん(以下:著者)の2冊の著書を拝読し、ランキングの背景を考えてみました。

この記事を読めばランキングの捉え方が変わる。。かも。いくつか重要なポイントを上げますので、ぜひ参考にしてくださいね。

この記事で読んだ本
・地域ブランド進化論/2012年発売
・事例で学ぶ!地域ブランドの成功法則33/2008年発売

なぜ地域ブランドが必要なのか

まずはブランド研についておさらいしましょう。公式サイトから引用します。

「ブランド総合研究所」は、地域ブランドおよび企業ブランドの研究とコンサルティングを行う専門企業として、2005年11月に新たに設立いたしました。ブランド戦略の理解・普及活動、戦略立案などを担当するほか、ブランド力を高めるためのPR、調査、テストマーケティング、コンサルティング、商標管理などの専門業務を行います。
会社概要/ブランド総合研究所

ブランド研が地域の事業に取り組むのは、次のような背景があります。

周知の通り、日本の多くの地域は高齢化や過疎化が進み、地域経済的にも中小企業の経営面でも非常に厳しい状況に置かれている。それだけではなく、日本そのものも初めて人口減少の時代に突入した。今、地域が最も悩んでいるのは、人口の減少により国内の需要が縮小していくことである。
地域ブランドは新たな地域のビジネスモデルの象徴/地域ブランド進化論

今後も引き続き苦しい状況が続くと語られています。それについて簡単にまとめます。

厳しい未来
  1. 高齢化によって人口減以上に消費量が減少する
  2. 海外から安価な商品が入ってきて物が売れない
  3. 物が売れないのに生産や輸入を続けるので価格が下落する(=デフレ化)
  4. インターネット上の価格破壊によって企業やお店の経営が圧迫される

なんとも厳しい見通しです。たしかに執筆された2012年頃の日本経済はひどいものでした。

これまで多くの地方都市は、大企業の下請け工場を作ることによって雇用を生み出し発展してきましたが、それもいよいよ限界。いま地域に必要なのは、地域の資源を活用した新しいビジネスモデルで、それが地域ブランドなのだ!!。。著者の考えです。

MEMO

2006年、商品名に地名を使えるように商標法が改正されました。その後、続々と地域ブランドを後押しする政策が出されたことで、各地の活動が活発化していきました

その経済認識は正しいか

前の項で「なるほど」と思った方は、この先さらに注意深く読んでください。

著者の『地域ブランド』の内容はともかく、それで人口減少、デフレ、グローバル化、価格競争などの問題が解決するのでしょうか。

グローバル化やインターネットは世界中で推進されています。それによって不利益が多いなら、普及しないはずですが。。

また、人口減少とデフレを結びつけるのは間違いです。人口減少している国は日本以外にたくさんありますが、デフレではありません。

平成期の消費者物価指数の推移/出典:消費者物価指数半世紀の推移とその課題

平成期の消費者物価指数の推移/出典:消費者物価指数半世紀の推移とその課題

わたしはこれらの原因を政府と日本銀行の経済政策の誤りと認識しています。2014年以降は(一応)デフレ脱却しました。人口は増えていませんし、価格競争も止まっていません。が、分析はひとまず置いておきます。

疑問を感じるのは将来の不安を煽りすぎていることです。地域が疲弊する原因として、先の話の他に口蹄疫の事件や火山の噴火、大震災、原発事故なども加えられていました。

繰り返しますが、『地域ブランド』でそれらが解決するのでしょうか。しないのであれば、このような文脈で訴える理由を知りたいです。

地域の資源を見出して活性化。そのサポートは素晴らしいですし、必要とする方も多いでしょう。地域(地方)の住民としても期待しています。なにより優れた商品やサービスが提供できるようになれば、多くの方にとって喜ばしいです。

ただ、このように不安にさせたり追い詰めるような手法はいただけません。

どんな方が魅力度ランキングに興味を持っているのでしょうか。keysearch Betaはキーワードを入力すると、Googleで一緒に検索されている言葉が表示されます。

『魅力度ランキング』と入れてみるとランキング上位の都道府県は出てきません。一方、ランキング下位の地域(茨城含む)はよく調べているようです。ランキングの需要として覚えておきましょう。

ランキングの正確さはいかに

ランキングが発表されたからには、その信ぴょう性を確かめたいですよね。最下位だと多くの方は住みたくない、観光に行きたくないと思っているのでしょうか。

ランキングはインターネットを通じたアンケート調査によって集計されています。年齢や性別、地域ごとにほぼ同数を回収。全体で約3万人の回答があったそうです。

詳しくはブランド研のサイトをご覧いただくとして、2008年の市町村別の魅力度には気になることが。。

『学術・芸術のまち』ランキング

『学術・芸術のまち』ランキング

「学術・芸術のまち」「IT・先端技術のまち」「教育・子育てのまち」でつくば市が上位にランクイン。それに続いてつくばみらい市もランクイン。

つくば市とつくばみらい市。名前はよく似ていますが、人口や産業など大きな違いがあります。つくばみらい市はつくばエクスプレスの駅を持つ発展中のまち。先にご紹介したカテゴリで上位に食い込むのはかなり難しいように思います。

なにが言いたいかというと、回答者はつくばとつくばみらいを間違えているのでは?それもランキングに影響するほどの大多数です。

実際に住んでいたり、観光したり、なにか調べたことがあれば、このような間違いはないでしょう。多くの方は印象だけで答えているのだと思います。

アンケートの質問は全国1,000の市町村から選択します。すべては比較できないので、回答のほとんどは「知っているところ」「なんとなく覚えている」程度のはず。

それでも魅力度を測ったことになるかもしれませんが、どれくらい価値がある結果なのかよくわかりません。

低い順位だと残念な気持ちになるのはわかりますが、これを気にしたらダメです。

人間関係であらゆる人に好かれようとしたら、精神的にも経済的にも無理が生じます。『県の魅力度をアップしよう』には同じ危険が潜んでいるように思えてなりません。

ランキングを気にするよりも、地域の規模や特性に見合った範囲で収益の上がる取り組みをしたほうがよいと思います。

地域ブランドは生み出せるのか

成功に法則があったらどれだけ楽でしょうか。法則に従っていれば100%成功。。夢のようなお話ですが、ぜひとも知りたいですよね。

著者は事業を通して多くの地域ブランドを見てきました。多くの方々が工夫をしながら困難を乗り越えてきたストーリーを読み続けていると法則があるような気がしてきます。

それでは実際のところは?試しに成功事例として上げられた商品をネット上で検索してみると。。

話題になったのは著書の発売された年の前後。名前は出せませんが、販売されてない商品もありました。10年も経っていれば当然ですよね。

もし、本当に成功法則があるなら、賢い人はひたすら繰り返して極端なお金持ちになっているはずです。そんな人がめったにいないということは。。察してください。

成功ってすごく難しいんです。おそらく、著者自身よくわかっています。例えば次の文章。

ブランドは1年や2年でつくられるものではありません。何十年もかけてつくられていくものです。しかし、何十年もかけて構築したブランドであっても、たった1つの事件や事故をきっかけとして一瞬にして崩壊してしまうのです。
築き上げた評価を下げないための取り組み/事例で学ぶ!地域ブランドの成功法則33

仰るとおりです。でも、思い出してください。そもそも苦しい経済状況を変えるための地域ブランドです。構築されるのが数十年後でよいのでしょうか。

2冊を通じていえることですが、ブランドに対するこだわりに異論はありません。ただし、事例はあっても生産性を上げるような提案はなく、教科書に従った経営の上で徹底的に地域のこだわりを提供する、という極めてハードルの高い内容です。

そこまでして地域にこだわる理由はなんでしょうか。地域を活かすのではなく縛られている気さえするのですが。。

茨城県の人気店を訪ねてみると、地域の自然や特産品を利用していることが多々あります。ない方が珍しいです。

でも、それは利用した方が利益を得られたりお客さんの満足度が高いからで、ブランド云々は後の話だと思います。つまり、よりよい経営を追求した結果なんです。

まとめに代えて

「地域ブランドがあるとうまくいく」

そう考えてしまうと、地域ブランドづくりに熱心になってしまいます。ブランドはあくまで手段。目的になると市場や顧客を見失ってしまい、よくない結果がでることでしょう。

魅力度ランキングもブランドのひとつで、順位を上げたいと意識が強すぎると実際に関わる方々への対応がおろそかになります。そう断言できるのは、人や組織の資源は限られているからです。「魅力度アップ」が全面に出るようなら注意ですね。(少し前の茨城は怪しかった)

魅力はランキングを気にするよりも目の前のことにどれだけ集中できるかで決まると思います。

わたしはこれまで魅力度ランキングについてほとんど触れませんでした。中身がよくわからないので、語りようがなかったんです。

毎年、ネガティブな結果と意見を聞くたびにモヤモヤしていましたが、ようやく考えを整理して公開できました。今後、ランキングが発表されるたびにこの記事を読んでポジティブになる方がいたら幸いです。

なお、この記事を批判的な内容と受け取る方が多いと思いますが、テーマに沿って意見の異なる点だけ書いたためです。

事例紹介は大いに参考になりましたし、わかりやすい文章でした。また、地域が広範囲に渡っており、著者の見識の高さが伺えます。

ただ、2012年と2008年の情報を元にしているため、現在違っていることもあるかもしれません。その点はご容赦ください。

近年の内容も知りたいと思っていますので、新著が出ましたら拝読させていただきます。


参考文献