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「水戸黄門って本当は諸国を漫遊してないんだよ」
その通りなんですが、それを言うなら次のことも付け加えてほしいです。
「本物の水戸黄門は時代劇よりスゴイ」
本物の水戸黄門は孔子と同じくらいの人格者で儒家以上に儒教の本質を理解し実践していました。もしかしたら世界一の儒家です。そして理想の主君だと思います。
この記事ではそんな水戸黄門こと徳川光圀の人柄を知れる一冊、但野正弘さんの『黄門様の知恵袋』をご紹介します。
概要
タイトル | 黄門様の知恵袋 |
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発行日 | 1999年11月1日 |
著者 | 但野正弘 |
発行所 | 国書刊行会 |
ページ数 | 175ページ |
本書はIBS茨城放送のラジオ番組『IBS歴史文化講座・黄門様の知恵袋』をもとに執筆されました。番組は平成10年10月5日〜平成11年3月29日まで半年間で全26回が放送され、放送を終えた後にリスナーから書籍にしてはと意見が集まり執筆に至ったそうです。
内容は以下のとおり。全4章で構成されています。
- 知恵袋
- 梅と桜
- いきいき晩年
- 徳川三代と黄門様
江戸時代の書物を出典に光圀公のエピソードが語られています。素朴な内容が多いですが、(当時)28万石の藩主と考えると驚くようなことばかりです。
どうして学問を重視したのか、なぜ梅が好きなのか、自分のことをどう思っていたのか。血筋も立場も文句なしですが、驕らず謙虚で質素な生活を送った理由はなんなのか。エピソードを通じて光圀公の人柄がわかる良書です。
ただし、光圀公について基礎的な事柄(生い立ちなど)についてはほとんど記述がありません。ネット上でいくらでも調べられますので問題にはならないと思いますが、本書はあくまで人柄を知るための本とした方がいいでしょう。
②『梅と桜』の章で紹介されている桜は、水戸市の「六地蔵寺の枝垂桜」、茨城町の「小幡の千貫桜」、常陸太田市の「旌桜寺の旗桜」です。
感想
とてもいい本です。ポイントを3つにまとめます。
話し言葉なので中高生にもわかりやすい
ラジオ番組が元になったということで全編が会話調となっています。途中、古典を引用している箇所は漢文になりますが、直後に日本語訳がありますので漢文をまったく読めなくても大丈夫です。
固有名詞は調べる必要があるものの文脈を考えれば内容の把握は難しくありません。光圀公はまれに見る人格者なので、まずはこうしたわかりやすい本から入るのがいいですね。
ページ数は200足らず。テンポの良い文章なので一日とかからずに読めました。また、心温まる内容ばかりなので読み終えてホッとした気持ちになれたのも良かったです。
当時の光圀像に触れられる
面白くてわかりやすい一方で正確さが欠けていたら問題です。でも、その心配はありませんでした。各エピソードは『桃源遺事』『玄桐筆記』『西山異聞』などが出典です。それぞれ江戸時代に執筆された光圀公の逸話集です。
わたし自身は出典とされている原書を読めませんので、エピソードの抽出とわかりやすい現代語訳はとてもありがたいです。講談をもとにした光圀像よりもずっと正確な表現がされていると思います。
光圀公の思想に迫っている
わたしがもっとも興味深かったのは光圀公の思想についてです。前々から思っていたのですが、光圀公は朱子学や儒教を重んじる一方で「中国の朱子学」や「中国の儒教」を否定する一面があります。
社会秩序は必要としつつも階級社会には否定的ですし、夫婦や親子の関係をこうあるべきともしません。(お互いを尊重するようにとは言います)藩のトップでありながら官学である朱子学に対する理解は一般の官僚(役人)と大きく異なっているように感じます。
わたしは光圀公の方を支持しますが、どうしてそのような考えに至るのか。「それはこういう理由だ」と一言でまとめることはできませんが、数々のエピソードを知ると、なんとなく掴めるものがあります。
本書を通じて光圀公の感性に触れていると、自信のなさや後ろめたさがあるからこそ学問に励み自分を律したのではないかと思いました。光圀公は客観的にはエリートですが、庶民感覚や世間の常識をしっかりと身につけていましたので、なるべく領民に寄り添う政治を行ったのでしょう。
購入方法
新品を購入するのはほぼ不可能ですが、Amazonなどでは中古品が販売されています。
1999年発売と極端に古い本ではないので県内の本屋さんであれば「郷土本のコーナー」に置かれている可能性があります。
まとめ
この記事のまとめ
- 茨城放送の内容をもとに執筆された
- 光圀公の人柄にスポットを当て話し言葉で書かれている
- 出典が明記され、当時の人々の認識も把握できる
もし、光圀公を通じて水戸藩に興味を持ちましたら岡村青さんの本がオススメです。水戸藩の通史と藩主の履歴がわかりやすくまとめてあります。
【書籍紹介】シリーズ藩物語 水戸藩|岡村青|水戸藩を客観的に見てみる
記事は筆者の主観が多分に含まれております。
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