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- 由緒とご本尊
- 「つり祈祷」について
- 御朱印のいただき方
稲敷市で有名な場所といえば個人的にはテレビなどのメディアでよく取り上げられる大杉神社かと思いますが、もうひとつ挙げるとすれば「浮島」ですね。
浮島は古くは陸続きではない文字通りの島でした。『常陸国風土記』にも記述がある地域なので郷土史のお好きな方ならみなご存知でしょう。近年では浮島の和田公園のチューリップが観光地として話題になっております。
そんな浮島には古くから人が住み、信仰が盛んだったようです。今回はその中でも釣船寺をご紹介します。初見では「つりぶね」と読んじゃいますよね。特に霞ヶ浦で釣りをされる方は覚えておいていただきたいです!
釣船寺とは
由緒
ご本尊は延命地蔵菩薩です。曹洞宗のお寺の本尊は釈迦如来がほとんどなので、当寺にはなにか特別な理由があるのかもしれませんね。境内には多くの地蔵菩薩の石仏が見られ、地蔵信仰が盛んだったことがうかがえます。
創建は現在の美浦村にある永巌寺の和尚で当寺は永巌寺の末寺にあたります。ただ、浮島の清光寺の古文書によると同寺の末寺であるとか。浮島には曹洞宗のお寺が三ヶ所あるので関係性が気になるところです。
それでいうと同じ浮島には「宗船寺」というお寺もあります。「船」の字はそうそう見かけませんから、同じ地域で2つ見られるのはちょっと面白いですね。漁師など船に乗る人達が信仰したのかそれとも。。
寺号の由来は定かでありませんが、それにゆかりまして現在では釣り人向けの「つり祈祷」が行われています。海中山の山号といい、当寺をご存知であれば同様の祈願をする方はたくさんいらっしゃのではないでしょうか。
アクセス
最寄りICは東関東自動車道の潮来ICですが、茨城県民だと少々使いにくいのでほぼ同じくらいの距離にある圏央道の稲敷ICになるかと思います。
わたしはいつも境内(本堂)東側のスペースに駐車しておりますが、もしかしたら正面入口付近にも停められたかも。
名称 | 海中山 釣船寺 |
---|---|
住所 | 茨城県稲敷市浮島3583 |
駐車場 | 駐車スペースあり |
Webサイト | 公式サイト |
境内入口
こちらが釣船寺の正面入口です。外部から来る方は大通りからかと思いますので、ほとんどの方は回り込んで入る形になるでしょう。
江戸時代から続くお寺ですが、近年に住職の交代された頃から続々と境内が整備されているようです。寺号標は平成13年に建立とありました。
それにしても「海中山」とは面白い山号ですよね。海の中に山はあるのかと。この場合の海は霞ヶ浦を指すのでしょうか。古くは海水が流入する汽水湖だったのでその名残かもしれませんね。
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参道
参道には多くの石仏が並んでいました。さすがにもとからここにあったものではなく、それぞれ別の場所で祀られていたのでしょう。土地の開発によって地蔵信仰の中心地であった当寺にまとめられたと思われます。
かつて浮島には多くの寺院がありました。現在では曹洞宗の三寺が知られていますが、他にも神宮寺、妙行寺、極楽寺、地蔵院、光明院がありました。廃寺はすべて天台宗なので曹洞宗とは何か事情が違ったのでしょう。
また、桜川村の郷土資料によると、天明5年(1785年)には境内に秋葉権現、地蔵堂、観音堂などの建物があったとか。秋葉権現については当寺のパンフレットにも記載があります。六世の梅門團嶺和尚が現在の静岡にある秋葉権現から勧請したとのことで、たびたび火災に遭ったことに起因しているようです。
秋葉権現が現在の境内にないのは明治の神仏分離によるものだとか。ただ、当寺の北に秋葉神社があるのでもしかしたら少し離れた場所に遷しただけかもしれませんね。
浮島の西浜観音堂は釣船寺で管理しているようです。
サルスベリの木
本堂正面に見えるのはサルスベリ。表面がつるつるしているので、木登りが得意なサルもすべってしまう、と小学校の頃に教わりましたが、それって本当なのでしょうか。。
それはともかくとして、釣船寺の公式サイトではこれについて面白い風習を紹介しています。
この地域独特の風習で、ご葬儀の際、埋葬前に本堂前のサルスベリの周りを6周巡ります。迷って死者が出てこないようにとの願いが込められています。
サルスベリの木|釣船寺(公式サイト)
「6」という数字が決まっているのは面白いですね。考えてみればお地蔵さまも六地蔵だし、6は不思議な力を持つ数字なのかもしれませんね。
本堂
今から7年ほど前に再建された本堂です。さすがに真新しいですね。入口のドアはスライド式になっており、階段の勾配がゆるい安心設計。
面白いのは扁額です。立派な魚が泳ぐ中で穏やかな顔で釣りを楽しむ恵比寿さまがおりました。本物の釣り糸らしきものが彫刻とは別にあって妙にリアル。ご住職のこだわりでしょうか。
当寺のご本尊は前述の通り延命地蔵菩薩です。解説を公式サイト(写真あり)から引用します。
現ご本尊は、火災後の享保五年(1720)12月8日、中興六世梅門團嶺大和尚によって建立されたもので、錫杖に宝珠を持った延命地蔵の半跏像です。
一般には坐像が多い中、片足を垂らした半跏像は非常に珍しく貴重な像です。
ご本尊を建立した和尚は寺を中興したともあるので、この時代に寺としての転機もあったのでしょう。個人的にはやはり立て続けに火災に遭っていることが影響しているのではと思います。
釣船寺の名前を聞くと釣りを連想しますが、お寺としてはこれまであまり強調してこなかったようです。現在のご住職が就いてから少しずつ広まっているのだとか。
曹洞宗のお寺なので従来は座禅のイメージがあったかと思いますが、近年は釣り人も集まるお寺に変化しているようです。なんとも面白いですね。
つり祈祷・つり供養
当寺の特徴といえば、なんといってもつり祈祷。公式サイトでは次のように説明されています。
そこで当山では、本堂にてご祈祷希望者の方と共に、釣行上の成果そして釣行の安全への願いを込めて、ご祈祷供養を行っております。 釣りをされる皆様の健康を祈願してのご祈祷・釣行上の安全のご祈祷はもとより、釣船、釣道具、釣竿、釣針、釣り糸の魂入れ(開眼供養)や長年愛用した釣道具に感謝の念を込めたご供養もいたします。
つり供養|釣船寺(公式サイト)
釣りといいますか、豊漁や大漁祈願といえば神社のほうが一般的でしょう。意外かもしれませんが、県内では稲荷神社で祈願する漁師が少なくありません。
私見によりますが、これは五行説という古い哲学に基づく発想で「土気」にあたる稲荷神は「土剋水」の法則により水の働きを弱める。すなわち海面が安定して海難事故が起こりにくい、漁で魚が穫れるというロジックです。
話を戻すと、魚とはいえ殺生には違いありませんから、仏教に従えば檀家の頼みといえど応えられないお寺もあったのではと思います。
ただ、畜生(人間以外の動物)は本来成仏できないけれど、人に食されることで人の一部となって成仏できるといった考えもあります。それに釣り人や海上の安全祈願であれば殺生とは無縁です。捉え方は色々ですね。
現代では釣り人の事情もずいぶん違ってはいるものの、安全により多くの魚を釣りたい気持ちは変わらないはずです。であれば、釣りとゆかりのありそうな当寺で祈願しておくのは一理なので試してみてはいかがでしょう。
御朱印
釣船寺の御朱印です。本堂の向かって右手にある庫裏でお声掛けください。
以前はご本尊の「南無延命地蔵」でしたが、さいきんは可愛らしい絵となっております。亀(玄武)は北方の守護神で水を意味することに由来するのでしょうか。
まとめ
この記事のまとめ
- ご本尊は延命地蔵菩薩。江戸時代初期に永巌寺の末寺として創建
- つりの安全や釣果のための祈祷がある
- 御朱印は本堂右手の庫裏でいただける
参考文献
茨城の寺(四)/今瀬文也
茨城県の地名/編:平凡社
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記事は筆者の主観が多分に含まれております。
誤解や情報が古くなっている場合があることをご了承ください。
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