wata
- 由緒とご祭神
- 愛宕山古墳について
- 御朱印のいただき方
「古墳」は遠い昔の出来事に間違いありませんが、じつは『古事記』や『日本書紀』が成立する直前まで造られていたんですよね。
ということは誰もが知るような歴史上の人物が葬られている可能性もあるわけでロマンあふれる場所に違いありません。ただし、情報が断片的なので憶測多めになりますけどね。
今回はそんな古墳と一体となった水戸の愛宕神社を紹介します。愛宕山古墳は国指定の文化財なので古墳好きにもオススメです!
愛宕神社とは
由緒
土地の見分は和田安房守、卜定により適地と定めた。
ご祭神は火之迦具土神です。それに建借馬命と綾媛命を配祀しています。
ヒノカグツチといえばイザナミとイザナギの間に生まれた火の神。イザナミの死の要因になったとも伝えられ、そのことで父イザナミによって葬られています。『古事記』『日本書紀』ともにあまりポジティブな記述でないため、各地で崇敬されるのはちょっと不思議な気もしますよね。
ただ、当社が伝えるとおり火は生活に絶対的に必要であり、時には火事などの災難を呼ぶことから特別な配慮と崇敬がなされたものと考えられます。
ところで、『新編常陸国誌』からは、そうした神格と違ったものが読み取れます。なんでも神体は馬に乗った武者姿の木造。その前後左右に太郎坊、役行者、前鬼、五鬼(おそらく「後鬼」の誤記)あるとか。
太郎坊は京都の愛宕山に住む天狗。役行者は修験道の開祖、それに使役されるのが前鬼・後鬼です。天狗は山伏の姿で描かれることが多いですし、修験道との関係は明らかですね。神体についてはもう少し詳しく知りたいところ。
由緒は中世の時代が不透明に思います。平国香が平将門に討たれたのは承平5年(935年)、水戸城は馬場資幹(大掾資幹)によって建久年間(1190−1198年)に築城とされていますからね。
これについては大掾氏の系譜に関わる深い意図を感じます。当社が元亀年間に一般に開放されたのは事実の可能性が高いと思いますが、それまでは長らく領主の氏神のごとく崇敬されていたということでしょうか。
当地の旧名は袴塚村。馬場資幹の三男である親幹の領地であり、親幹は袴塚三郎と称していました。土地と氏族を歴史で結びつけるような重要な記述というわけですね。
そして当社の最大の特徴は巨大な古墳(愛宕山古墳)の上に鎮座していること。実際に参拝しても分かりにくいのですが、神社のYouTubeチャンネルでドローン映像を見れば一目瞭然。ぜひご覧ください!
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天狗の概要はこちら
アクセス
最寄り駅は水戸北IC。下りてから約5分です。
水戸駅から5kmほど近いです。公式サイトの案内によると以下のバスで行けるそう。
水戸駅北口7番乗り場(茨大前経由バス)に乗車、「上水戸入口」下車
*乗車時間:約20分
*運 賃:310円
立派な駐車場があるので車でも安心です。また駐車場内に社務所が建てられています。
名称 | 愛宕神社 |
---|---|
住所 | 茨城県水戸市愛宕町10-5 |
駐車場 | あり |
Webサイト | 公式サイト |
祭祀 | 1月1日…元旦祭 1月24日…年頭祭 2月3日…節分祭 4月24日…春の例祭 8月24日…夏の例大祭 11月8日…ふいご祭り(鉄工・ボイラー・工場安全祭) 11月15日…七五三祭 |
鳥居および手水鉢
愛宕神社の社殿は南東向き。そのため本来は南東の鳥居から参拝するのですが、駐車場が南側にあって少し歩くため、現在は南西から参拝する方が多いようです。
この鳥居は南西側の鳥居です。参道はしっかりと整備されており、比較的新しく建立されたものが並びます。
手水鉢もこの通り。裏側には庚申塔などの民間信仰の跡が見えます。愛宕権現は修験との関係が色濃いので庚申信仰なども熱心に行われたのではないでしょうか。
庚申の解釈は地域によって微妙に異なるのですが、当地の場合は庚申の日には「三尸の虫」が天帝に宿主の悪事を知らせるという伝承から眠らずに夜を明かすことで健康・長寿に繋がるという考え方かと思います。
参道の石段
手水で清めたらいざ社殿へ。参道の石段はそこそこ続きますので、これがお墓(古墳)だと思うとどれだけ立派な人が埋葬されていたんだろうと考えちゃいますね。
大きさと年代については以下のように伝えられています。
愛宕山古墳は、那珂川を見下ろす台地上に立地し、那珂川流域における最大規模を有する前方後円墳です。墳丘全長は137m、後円部径78m、同全高10m余、前方部幅73m、同前高9mを測る典型的な中期古墳の様相を呈しています。
後円部墳頂及び裾部において大形の円筒埴輪が発見されたことから、3~4列に及ぶ埴輪列の存在が推定され、考古学・古代史研究上重要な意義をもっています。
愛宕山古墳/茨城県教育委員会
埋葬されたといわれる建借馬命は『常陸国風土記』によれば崇神天皇の時代の人とのこと。西暦に換算すると紀元前から紀元後にまたがる頃ですね。古墳時代ではありませんから、そのあたりの整合性はどうなんでしょ。
なお、当地の東には建借馬命の夫人が埋葬されたという伝説の姫塚古墳(前方後円墳)がありました。同古墳は戦中に対空兵器を設置した際に壊してしまったようです。
社殿
登り終えた先にある社殿はとってもカラフル。赤、白、緑が印象的です。歴史ある神社なのは間違いありませんが、近代的な雰囲気が漂っています。
拝殿にはこのような画が掲げられていました。いずれもご祭神の火之迦具土を表すのでしょうか。イザナミや明王のように見えるのですが。。これが愛宕権現でしょうか。
愛宕権現は火防の神とされながら、じつは火災によって社殿を焼失することが少なくありません。護摩を焚く修法が多いためでしょう。当社の場合は護摩焚きが特殊らしく、光圀公から褒賞激励されたという社伝があります。
ちなみに神職の武藤氏は天正10年(1582年)に江戸但馬守から任命されたそう。また、当時は三十三院を配下に持つ大光院が当社の別当を務めていました。住職の藤原源栄は稲田神社(笠間)の別当職でもあったとか。
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境内社
社殿の周辺にはいくつも境内社が並べられています。それぞれ祭神やご神徳などを説明する札が立てられているのは参拝者として助かります。
それに一般的には知られていないものも多いので。。たとえば次のような神社です。
- 妙義神社…日本武尊
- 姫塚古墳神祠…建借馬命妃
- 鹿野神社(飯綱・多賀神社と一体)…伊邪那美命
日本武尊の存在が興味深い。尊は建借馬命と密接な関係があるようで信仰される地域も重なります。わたしの密かな研究テーマだったりします。
また、わたしには見つけられなかったのですが、『新編常陸国誌』に次のような末社があると記されています。
- 大天狗社
- 太郎坊社
- 十二天狗社
これらは明治の神仏判然令によって隠されてしまったのでしょうか。興味を持つ方が多いと思うので、神社側でご存知ならそろそろ復興させて欲しいのですが。。
愛宕権現と天狗の関係は笠間の愛宕神社にも伝承があります。そちらは平田篤胤が実話として伝えた『仙境異聞』にあるので有名ですね。天狗の弟子となった寅吉の物語です。
境内社はこの他にも多数鎮座しています。その中でも注目して欲しいのは三島神社です。境内というより摂社の位置付けて、立派な社殿が立てられているので目立っています。
なんでも当地に愛宕権現が建てられるまでは三島神社の境内だったとか。こちらとは別に八幡神社と大羽黒神社と一体となった三島神社もあって、鎮守社としての地位を失ってからも崇敬は続いていたようです。
三島神社のご祭神は大山津見命。ヒノカグツチと同様にイザナギとイザナミの間に生まれた山の神です。
ここでわたしが興味を持つのは茨城に限らず山の神を「ジュウニサマ」と呼ぶこととの関連性です。
県内には「十二所神社」と称する神社がいくつもあるのですが、由来のよくわからないものばかりです。社号から十二の神社を合祀したとも考えられますが、そうした事実は見当たりません。
しかし、大子のように十二の祭神(天神七代+地神五代)を並べるケースもあるので、それが十二天狗に通じているのではないかと推測しています。
たとえば、当地には「ジュウニサマ」と呼ばれる山の神が祀られていたが、その由来はだれも分からなくなっていた。その後、同地に愛宕権現が祀られるようになると権現の持つ修験道のイメージと「ジュウニサマ」の神格が合体。山の神=ジュウニサマ=十二の天狗の爆誕となった。これは十三天狗の伝説で知られる笠間にもいえるかも。
天狗伝説が2つの神社の崇敬から成り立っていたとするなら面白いなあと思うのですが、真実はいかに!
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おまけ:東南の参道
今回は駐車場に隣接した南西の参道を紹介しましたが、往古の雰囲気を味わいたいなら南東がオススメです。
そちら側も手水舎などがしっかり整備されているのでまったく不自由はありません。参道の長さ=古墳の大きさなのでやっぱり驚くと思いますよ。
この参道は住宅街にあるとは思えないほど閑静で神秘的。古墳というより完全に山です。かつて大山津見を祀ったというのも納得。天狗も住んでいるかもしれません!
御朱印
愛宕神社の御朱印です。境内の社務所でいただけます。インターホンで知らせてからお受け取りください。
コロナ禍であればおそらく書き置きのみになるかと思います。それでもいただけることに感謝ですね!
まとめ
この記事のまとめ
- ご祭神は火之迦具土神、建借馬命と綾媛命を配祀している
- 愛宕山古墳は国指定文化財。那珂国造の祖とされる建借馬命の墓と考えられている
- 御朱印は駐車場脇の社務所でいただける
参考文献
茨城県神社誌/茨城県神社庁
茨城県の地名/編:平凡社
新編常陸国誌/
この記事で紹介した本はこちら
wataがいま読んでいる本
マンガで『古事記』を学びたい方向け
神社巡りの初心者におすすめ
記事は筆者の主観が多分に含まれております。
誤解や情報が古くなっている場合があることをご了承ください。