賀の八龍伝説を訪ねる〜八龍神社と息栖神社(神栖市)

たまには恐ろしい話をします。神栖市かみすしの八龍伝説です。

茨城県のもっとも東にある神栖市。いまでは立派な工業団地で知られていますが、江戸時代までは港町として栄えていました。江戸と東北の中間地点として活躍したそうです。

神栖で有名な神社といえば息栖いきす神社。鹿島神宮や香取神宮と並んで東国三社に数えられています。ご祭神は港町らしく航海の安全を見守る神々。

では、海の危険にはどんなことがあるのでしょう。それが八龍伝説と関係しています。この記事では伝説に関係する神社をめぐってご紹介します。

民話『八龍神社物語』

早速、伝説をご紹介します。内容は『民話でつづる霞ケ浦(著:仲田安夫)』をベースにしています。

むかしむかし、あるところに弥平という商人がいました。弥平は素性のわからない男でしたが、商売上手でたいへん裕福な生活をしていました。

ある日、弥平が船に荷物を乗せて外浪逆浦そとなさかうらを渡っていたときのことです。近ごろ噂になっていた海賊が現れて、船に乗り込んできました。

海賊の頭は「大した荷物だ!これは大金になりそうだ!」と満足していましたが、弥平は「これはわたしの商売に必要なものです。どうか見逃してください」と何度も頼みました。

ところが、頭はそれが気に障ったらしく「うるさいやつだ。それならお前を殺して船ごと奪ってやる」と弥平を船から放り出し、本当に船まで奪ってしまいました。

弥平はやがて力尽きてそのまま7日7夜さまよい続けました。たどり着いた先はの一本松。その日の夜、弥平の体は黒くうごめきながら、巨大な八頭の龍に姿を変えたのです。龍は「この仇は必ず討つからな!」と叫びながら飛んでいきました。

その頃、我が物顔で暴れまわっていた海賊は突然の天候の悪化に見舞われました。そして水面から巨大な龍が現れて海賊を睨みつけているのです。海賊の頭が呆然としていると、龍は低く恐ろしい声で「よくも俺をこのような目に合わせたな」

弥平のことを思い出した頭は「悪かった!命だけはお助けてくれ!」すると龍は「お前はおれを許さなかったではないか!」と逆上し、海賊船を青白い炎で焼き尽くしてしまいました。

この噂が広まり、村人は「このままでは外浪逆浦を渡れない。弥平の霊を慰めなくては」と八龍神社を建てて船の安全を願いました。それが弥平に届いたのか、龍は現れず外浪逆浦が荒れることもなかったといいます。

賀の八龍

怒りの龍が賊を葬った物語です。懲らしめるのではなく復讐。無関係な村人からも恐れられています。略奪から殺人にエスカレートするくだりも生々しい。特殊な民話だと思います。

航海の危険を伝えるお話ではないでしょう。外浪逆浦はいまもありますが、内海なので龍がいるとされるほど荒れたとは思えません。それにどうして頭が8つなのか。そもそも弥平とは何者なのか。気になることがたくさん。

wata

以前、県西の筑西市でも八龍神の伝説を見つけましたが、真逆の方角にもいたとは。。。龍の性格もまったく違っていて面白いです。

賀の八龍神社

八龍神社鳥居

弥平の霊をなぐさめるために建てられた八龍神社。お話の通り『賀』に実在します。大きな通りから外れていますが、雰囲気のわりに気軽に行けます。

入口の立て札には以下のようにあります。

八龍神社

※文化財・その他
創立 元禄元年四月(1688年)
祭神 大海渡神おおわたとのかみ
樹叢・常夜燈・大蛇伝説、近くに屋敷山遺跡がある。

賀は古くから渡津集落として栄え、江戸時代も河岸があって高瀬舟で賑わった。

大蛇とあるのが八龍のことでしょうか。龍が八頭である理由はわかりませんし、弥平の執念深さも蛇を連想させるような。伝説の違和感の理由はこれかも。

ご祭神の『大海渡神』についてご存知の方はいるでしょうか。おそらくこの神社でだけ祀られています。独自の神を祀った理由・・・気になりますね!

八龍神社社殿

社殿は簡素ですが新しくてキレイ。新緑に囲まれて朱が鮮やかに感じました。境内にはご祭神などがわからない祠が多数。立て札の内容といい、この神社には伝説の謎を解く鍵があるような気がします。地域史などで引き続き調べてみます!

アクセス

名称 八龍神社
住所 〒314-0134 茨城県神栖市賀1841
駐車場 あり

東国三社の息栖神社

息栖神社二の鳥居

神栖の龍伝説。息栖神社も絡めて考えてみます。実は八龍神社から車で5分ほどしか離れていません。立派な鳥居をくぐって境内の写真と合わせてご紹介します。

東国三社とは

息栖神社境内

冒頭でもご紹介したとおり息栖神社といえば『東国三社』。三社とは鹿島神宮、香取神宮、そして息栖神社です。3つの神社のご祭神は『国譲り』神話で活躍しました。

アマテラスの命令で出雲國いずものくにのオオクニヌシと国譲りの交渉をしたのがタケミカヅチ(鹿島神宮の祭神)とフツヌシ(香取神宮の祭神)。それを運んだのがアメノトリフネ(息栖神社の祭神)。

神話で重要な役割を果たした三神は人気があって祀られている場所も近い。江戸時代には『東国三社参り』が流行して多くの参拝者がいたそうです。実はいまなんですけどね。

現在、東国三社参りが人気なのはパワースポットとして知られているからでしょう神栖市観光協会の図をご覧ください。

謎のトライアングル図

三社を線で結ぶとキレイなトライアングル(直角二等辺三角形)。その内では不思議なできごとが起きるといいますが・・・先程ご紹介した伝説の舞台『外浪逆浦』はまさにその中。興味深いです!

MEMO
鹿島神宮と比べるとコンパクト。社殿は昭和38年に火事で消失したものを建て替えたので新しいです。でも、気軽に足を運べるので若い参拝者がとても多い神社です。近くに無料の駐車場があるのも魅力です。

ご祭神

息栖神社社殿

息栖神社のご祭神は、主神の岐神くなどのかみ、相殿の住吉三神、そして天鳥船あめのとりふねです。岐神は路の神。住吉三神は海上の守護神。天鳥船は交通安全の神ですから、昔から船乗りの信仰が篤かったと考えられます。

息栖神社の末社八龍神社

末社には八龍神社もあります。海上の災難から守る神々と一緒なのは自然なことでしょう。

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岐神は井戸の神。ご神体は井戸だそうです!

忍潮井

伝説とは関係ありませんが、息栖神社を訪れたらぜひ忍潮井をご覧ください。

息栖神社の一の鳥居

写真の大きな鳥居の両側に小さな鳥居が2つあります。この下に瓶があってそこから真水が湧き出ています。それが忍潮井。日本三霊泉の一つだそうです。なお、写真の鳥居が一の鳥居、先程の鳥居は二の鳥居です。

観光協会のサイトにはさらに面白いことがあります。

しかもこの清水には、女瓶の水を男性が、男瓶の水を女性が飲むと二人は結ばれるという言い伝えがあり、縁結びのご利益もあるとされています。現在忍潮井の水を直接飲むことはできませんが、境内の手水舎の奥にある湧き水は、忍潮井と同じ清水で、お水取りをすることができます。
日本三霊泉に数えられる『忍潮井』/神栖市観光協会

息栖神社に若いカップルが多いのは、こんな理由もあるかもしれませんね!

アクセス

名称 息栖神社
住所 〒314-0133 茨城県神栖市息栖2882
連絡先 TEL:0299-92-2300
※社務所が無人である場合があります。ご朱印やお守りなどを購入したい場合に確認しましょう
駐車場 あり
Webサイト 神栖市観光協会内

まとめ

神栖市の八龍伝説は恨みを持って死んだ男が龍になって復讐する物語。

伝説に登場する神社は実在し、東国三社の息栖神社にも八龍神社があります。ただ、伝説には奇妙なことが多く、元になったお話があるかもしれません。

八龍神社の大蛇伝説、東国三社のパワースポットの由来などを引き続き調査していきます。


参考図書
茨城の史跡と伝説/編:茨城新聞社
民話でつづる霞ケ浦/著:仲田安夫