wata
古くから続く祭りにはなんらかの個性があるもの。それは「しきたり」とか「習俗」とか呼ばれるもので、その地域にいない者にとってはなんとも興味深く感じます。
今回は行方市の大麻神社の例大祭をご紹介します。個性的であり、その名物はなんといっても山車に立てられる巨大な人形。山車人形とか大人形と呼ばれています。
山車人形自体は県内の他の地域でも見られるのですが、なにを人形とするかは地区の個性が出るので面白いところ。今回の記事では例大祭の中日に催される総曳きを観覧しましたので、そのようすをご紹介します。
大麻神社は行方市の麻生に鎮座しています。寛文年間(1661ー1673年)の火災によって旧記が焼失してしまったので古い時代のことは不明ですが、『茨城県神社誌』によれば大同元年九月十五日に創建とのこと。なんでも大竹のような麻のそばに創建したとのことで、それが社号の由来にもなっています。
神社で祀られる御祭神は次のようになっています。
- 武甕槌命
- 経津主命
- 大宮姫命
- 手力男命
- 市杵島姫命
- 倉稲魂命
- 水速女命
このうちタケミカヅチとフツヌシは山車人形にも選ばれているため主祭神にあたると思われます。神社については別の機会に紹介するとして、例大祭は次のように説明されています。
毎年10月の第3日曜日を中心に土曜日、日曜日、月曜日の3日間で行われます。玄通、蒲縄、下渕、田町、本城(宿)の5地区による5台の山車の曳き回しが行われ、土曜日の夜には5台の山車がすべて集まり踊りの競演が行われます。若蓮と呼ばれる若者達が雅で躍動する手踊りを披露します。また踊りが終わった後は「のの字回し」と呼ばれる山車の曲曳きが行われます。のの字回しは山車の半間(車輪)にてこ棒を当て軸とし山車を回します。この時山車の提灯が動かないようゆっくり回すことがよいとされています。
山車、山車の上に飾られた人形、手踊り、お囃子など江戸優りと言われた佐原の祭りの影響を色濃く残しています。
観光なめがた
この記事でご紹介するのは土曜日の夜に麻生公民館で開催される「総曳き」とか「総踊り」と呼ばれる行事です。五地区の山車が一斉に集まる共演の場となっております。
また、令和5年は有料の桟敷席が設けられ会場を展望できるようになっていました。おそらく初めての試みでしょう。せっかくなのでわたしはそちらから初観覧とさせていただきました。
桟敷席に関する案内は観光協会のブログにありましたので、来年以降に見たい方はチェックしておきましょう。
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アクセス(総曳き会場)
名称 | 麻生公民館 |
住所 | 茨城県行方市麻生122 |
駐車場 | あり |
Webサイト | 行方市(公式)サイト内 |
会場
総曳きは午後6時頃からとのことで、5時30分頃になって会場へ到着。よく考えたら駐車場がわからない。。とりあえず麻生公民館の建物南の駐車場に停めました。受付で確認したら特に問題ないと聞いて一安心。
チラシやポスターには駐車場の案内がありませんでした。勝手に停められては困るからだと思いますので妥当な判断です。総曳きの観覧などで利用したい方は事前に主催者に確認しておいたほうがいいですね。
ちなみにわたしが駐車したすぐ近くに御輿が安置されていました。これから見る山車とは違って神社の所有。大人用と子供用があるそうです。提灯の紋は左三つ巴。社紋はポピュラーですね。
桟敷席は前売り券と当日券の2種類があり、前売り券は2500円と当日より500円安。お得なのですが、平日に役場まで行かないと購入できないのが厳しい。当日購入できるか心配だったので観光協会に電話したところ席の空き状況を教えていただけました。
受付(当日券の購入)は非常に簡単で、希望の席を伝えて券を購入するだけ。たまたまセンターのあたりが空いていたのでこれ幸いと購入。お土産品として枡酒とタオル、それにちょっとしたおつまみをいただきました。
しかし、車で来たので枡酒は飲めないんですよね。そこでお隣の方にお酒を譲って枡だけお土産としました。わたしみたいな人は多いはずなので配るときに枡だけのパターンも用意してもらえるとありがたいかな。
続々と集まる山車に期待は高まるばかり。ただ、少し気になったのは辺りの暗さ。この時期は5時頃にはずいぶんと暗くなっており、動きがわかるような写真を撮るのは難しいところ。
それぞれの山車には見事な彫刻があり、それらをじっくり見たりカメラに収めるのはやや困難。こればかりは日中に見ておけばよかったとちょっぴり後悔です。
下調べせずに行ったので、景行天皇の山車人形を見たときには度肝を抜かれました。ヤマトタケルの父君にあたる天皇で、『常陸国風土記』では息子を想って常陸国まで訪れた伝説が記されています。
また、同書には麻生の地名についても次のように記載されています。
麻生の里。昔、麻が沢の水際に生えていた。その麻の幹の太さは、まるで大きな竹ほどもあり、長さも一丈以上あった。
常陸国風土記 全訳中
上の内容は当社の社殿ともリンクする内容です。おそらく大麻神社→麻生の由来→常陸国風土記→景行天皇のようにいくつも連想した結果、山車人形とされるまでになったのでしょう。
ゆかりはあると言えばあるのですが。。激レアです。山車人形にはこうした驚きがあるのがたまりません!
総踊り・総曳き
辺りがいよいよ暗くなってきて、総曳きの時間。慣れた雰囲気の司会者によって開会式がスタート。まずは来賓の挨拶です。祭りの数日後に衆議院議長となった額賀福志郎さんもいらしていましたね。ハツラツとした口調が印象的でした。
ちなみに写真は年番の実行委員長です。昨年は規模を縮小しましたから、今年は無事に開催できて本当によかったですね。年番の地区は恒例なのか会場の中央に山車を陣取ります。
この後に稚児役の男のインタビュー。鹿島神宮などもそうですが、小さな男の子は不思議と祭りの中心に置かれることが多々見られます。昔はその年代に神秘性を感じることがあったようですね。
県内では花園神社(北茨城市)の「花園ささら」のように、十代前半の男の子に限定した踊りがあったりします。近世以前にそうした年代がどのように捉えられていたのか興味深いところですね。
蒲縄の山車人形は菅原道真です。学問の神様として超有名なので、知名度では常陸国の一宮・鹿島神宮の御祭神であるタケミカヅチやフツヌシを上回ってしまうかもしれませんね。
スケジュールとしては山車の前のスペースで各地区が順番に踊りを披露。それが終わると同じ順番で山車を「のの字」に回します。
踊りやお囃子については佐原の祭りの影響を受けているといわれます。わたしは茨城以外にうといので詳しくご紹介できないのですが、鹿行地域のお祭りは同様の場合が多いようです。
特に山車人形のある地域はなんらかの関係があるのでしょう。鹿島神宮のお祭りを見ても、山車には「佐原囃子」の提灯が飾られている地区があります。
祭りの山車といえば「のの字回し」。豪快かつ軽快に回せるかどうかが腕の見せどころです。この説明はあらゆる祭りで耳にしますが、わたしとしては陰陽説の視点も大切にしています。
のの字回しは山車人形から見て右の車輪を軸に左の車輪が外側を回ります。右の車輪が内側、左の車輪は外側と言い換えることもできるしょう。陰陽説では右・内・静は陰、左、外、動は陽に分類されます。
すなわち「のの字回し」とは、その動きによって陰陽を同時に生じさせることになりますます。なぜそんなことをするのかといえば、陰陽があわさった状態を太極といい、とても尊いものとしたためだと思います。
太極といえば太極拳を連想する人が多いのではないでしょうか。太極拳はもともと長生きをするための運動といわれていて、それには体内の陰と陽のバランスを整える必要がありました。そのシンボルはたいてい太極図です。
これは東洋医学の漢方などでも使われる考え方で、足りない気を食べ物や漢方薬で補うことで体調を維持できるということですね。
それとお隣の国である韓国の国旗は太極図が元になっています。半島は儒教国家として長い歴史がありますので、建国の際に相応しいとされたのではないかと思います。
あまり難しく考えなくてよいのですが、「のの字回し」には人を元気にするように力がある。。かも!!ということです。そんなことを考えながら見ると、より楽しめるのではないでしょうか。
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・大麻神社の例祭は10月3週目の金・土・日に開催
・地区ごとに巨大な山車人形とお囃子がある
・大きな見どころは山車の「のの字回し」
参考文献
茨城県神社誌/茨城県神社庁
茨城県の地名/編:平凡社
記事は筆者の主観が多分に含まれております。
誤解や情報が古くなっている場合があることをご了承ください。