wata
- 由緒とご祭神
- 金刀比羅権現とオオモノヌシの関係
- 御朱印のいただき方
「取手」の地名は戦国武将の大鹿太郎左衛門の砦があったことに由来するそうです(参考:取手市(公式))。なるほど、大鹿氏は取手の重要人物ですね。
そんな大鹿氏の名前もまた地名となってありました。今では市内の「白山」にまとめられてしまいましたが、大鹿山弘経寺や大鹿城など今もその名残があります。
今回紹介するのは旧大鹿の地に鎮座する金刀比羅神社です。由緒、ご祭神、伝説など独特なのでぜひこの記事を参考に足を運んでみてくださいね!
目次
大鹿金刀比羅神社とは
由緒
※境内立て札による。『茨城県神社誌』では安永8年(1779年)
ご祭神は大国主神、伊邪那岐尊、伊邪那美尊の三柱です。神社にお詳しい方ならこれらが金刀比羅神社として異例であることに気がつくかと思います。
金刀比羅神社の本営は香川県の金刀比羅宮です。祀られているのは大物主神と崇徳天皇の二柱。つまり当社とはまったく異なります。分祀したはずなのにこれはいかに。
ただし、当社は昭和40年代くらいまでは大物主をご祭神としていました。大国主と大物主を同一視するのは『日本書紀』。大物主は大国主に幸いをもたらす幸魂奇魂であると述べ、大国主もそれを認めます。一般的に魂は人に宿るものとされますから、大物主と大国主を同体とする考えは一応理解できるところ。
わたしはこの二神は別の神だと思いますが、親しい関係なのは間違いありません。大国主は国土造成をしたイケメンで人気抜群。大物主と同体とすることでそちらのご神徳にもあやかりたい思いがあったのかもしれませんね。
また、伊邪那岐と伊邪那美についても興味深いものがあります。二柱は白山信仰の中核にある白山比咩神社に祀られていますので、当地「白山」に関係が深いのでしょう。しかしながら、主祭神たる菊理媛の不在はとても不思議。こちらも本営に準ずる信仰とは捉えがたいものがあります。
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アクセス
最寄りのICは常磐道の谷和原ICです。下りてから約30分(13km)と結構遠い。取手は県民でも微妙に遠く感じる地域ですね。
最寄り駅は常磐線の取手駅。下りてから車で約5分(1.7km)です。徒歩ではちと厳しい。
駐車場というか駐車スペースは社殿の北東にあります。上記のように294号に並行する道路から入ってください。
名称 | 金刀比羅神社 |
---|---|
住所 | 茨城県取手市白山6-9 |
駐車場 | あり |
境内入口と庚申碑
大鹿の金刀比羅神社に車で参拝する場合に社殿そばの駐車スペースを利用することが多いかと思います。そのため本来の参道に近いこちらの入口はあまり見にしないかもしれませんね。
とはいえ、南東向きの社殿に対して、この入口は北向きですから後世に便宜上の理由から設けられたのかと思います。参道沿いには白山町内会館があって、地域と神社が一体であるとわかります。
参道にはこのような石碑がゴロゴロ。写真は庚申講の記念碑でしょう。左は三猿、右は青面金剛が見えます。よくあるのはこの2つが同じ石碑に彫られたもので猿は青面金剛の足元にいます。
面白いのは青面金剛の足元には猿でなく鳥がいること。猿といえば十二支では申。五行説でいえば金気に配当され、じつは鳥(酉)と同じ。これに犬(戌)を加えた3支は同気であり親しい関係とされます。
ちなみに昔話の『桃太郎』では犬、猿、鳥(雉)が鬼退治で活躍しました。金気には「金剋木」と呼ばれる法則があって生気である木気を剋します。いわば殺気なので民間信仰では遠ざけようとする考えがあったと思われます。
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光音堂
入口から参道を直進して見えるのは光音堂。新四国相馬霊場を開いた観覚光音禅師を祀っています。
禅師は天明3年(1783年)に亡くなられたので、当堂もそれくらいの時期に建てられたのではないでしょうか。ちなみに霊場には数えられておらず別格扱いです。
決して大きくはない建物であるものの彫刻は見事。手毬は中が空洞なんですね。凄まじい技術だと思います。
セミの抜け殻がくっついちゃってますが、正面の龍もいい表情をしています。茨城の県西地域は不思議と優れた彫刻が集まっているのが面白いですね。
取手市の公式サイトにリンクされている霊場の案内サイトには当堂の紹介に次のような興味深い伝説を載せていました。
光音井戸の伝説は、当時この地(谷津)では、農耕用水が枯れるという、深刻な問題があり光音は原因を調べて「ここに井戸を掘れば難は救われる」と発せられ井戸を掘りました。
以来、水に苦しむことは無くなったと言われ、境内の光音井戸は現在でも利用されています。(飲用禁止)
石碑には「三神の威徳のます井なり 大師の利益くむぞ うれしき」と喜びの書が刻まれています。
ここで言う三神とは、五穀守護の稚産霊神(わくむすひのかみ)、倉稲魂神(うかのみたまのかみ)、保食神(うけもちのかみ)の神をいいます。
新四国相馬霊場光音堂
色々とミステリアスで面白いのですが、わたしが関心を持つのはお告げによって水が生じたこと。当地が小高い場所であることを踏まえれば山の神の神徳であるように思います。
伝承の三柱の穀物神は前述の五行説においては土気に配当され、山の神と同気です。恵みを与えてくれた尊い穀物神が祀られていないのは金毘羅権現(江戸時代の当社の神号)がそれに変わる存在か同体であったためと推測します。
ところで、かつて当地には大鹿山長禅寺(現在は取手市取手にあり)があったといわれています。山号が地名と合致するので事実なのでしょう。
地名にも使われるこの「大鹿」の由来はまったくの謎とされていて井戸の引用元のサイトには次のようにあります。
【大鹿という地名】 大鹿という地名は、正確に立証する古文書などがある訳ではないのですが、大鹿山には多くの鹿が住んで居たのではないかと推測されます。
大鹿城主の歴代も、野生の鹿を愛護していたと思われます。取手市新町5丁目に「鹿塚」と呼ばれる一画が残っていました、口伝なので確証とは言い難いので伝説としています。
新四国相馬霊場光音堂
「鹿がいたから大鹿」はなんとなく理解できるのですが、わたしはこの「鹿」が文字通りの意味ではなく「シシ」と読み、「猪」を指すのではないかと思うのです。シシは獣の総称で特に鹿と猪に充てられます。
それに猪は代表的な山の神であって『古事記』では伊吹山の神が猪の姿とあります。しかもその色は「白」。白と猪の組み合わせは山の神にふさわしいのです。
さらにいえば、猪は十二支の「亥」にあたり、五行説では水(水気)のはじめです。つまり、猪は山の神であり水を生じさせる力があります。こうした性質が金毘羅権現に習合したように思いますがいかがでしょう。
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鳥居
境内に入ってから少し歩いてようやく鳥居。手前の幟には金刀比羅神社の文字と羽根扇。団扇は天狗の持ち物ともいわれています。
本営が鎮座する象頭山には天狗が住むという伝説があるのでゆかりの紋なのでしょう。
当社は昭和期には「琴平社」と称していました。そのため古くからご存じの方はいまだにそう呼ぶ場合もあるようですね。宮司はどちらも正しいとしています。
ラブリーな狛犬が二体。古くは獅子と呼ばれ、対になる存在ではなかったそうです。今も正式には向かって右を獅子、左を狛犬というのだとか。特に区別しないところも多いですけどね。
手水舎もしっかり整備されていました。ご丁寧にその使い方まであったりして。拝殿の前には整列のガイドもありましたし、このご時世にあわせた感染対策がされているようです。
社殿
この神明造の社殿に驚く方も多いはず。県内では入母屋造や平入りの切り妻作りが多いですから、有名な造りとは言え実際に見る機会は少ないんですよね。
それにここは金刀比羅神社。伊勢神宮に代表される建物があるとは思いませんでした。
神宮同様の女千木。女神を祀る場合に用いられるといわれるので明らかな男性神である大国主とは結びつきません。。が、ご祭神の本質が「山の神」であるならば、女神とする考えは充分に成立するように思います。
なぜなら、記紀における神話の世界と違って民俗学で山の神といえば女神とされるためです。茨城県内でも山の神は男性を好む女神といいますし、オコゼやアワビを供えるのも傍証になります。
また、民間でも年配の男性が奥さんのことを「山の神」と呼ぶことがありますよね。この場合、面白いことに若い女性に対しては使われません。
若い方はあまり聞いたことないかもしれませんね。お父さんやお母さんに聞いてみてください。ドリフターズの歌の歌詞にもあったので載せておきます(一応公式の音源)。
本殿の周囲は信仰の集積地。見た目ではよくわかりませんが、稲荷神社や水神宮など様々な祠が置かれています。もとからここにあったのではなく、開発の過程で寄せられたのでしょう。
中には簡素とはいえない社殿もありました。龍の彫刻に力を入れているところを見ると水神としての信仰が強いのでしょう。こうした社殿や祠を丁寧に見ていくと白山信仰と金刀比羅信仰の結びつきが分かるかもしれませんね。
御朱印
大鹿金刀比羅神社の御朱印です。社殿に向かって左の社務所でいただけます。
ご不在のときが多いので石段を降りたところにある宮司宅で声掛けすることが多いかも。いただけたらラッキーくらいの気持ちでインターホンを押してください。さいきんは書き置きもあるようですよ。
まとめ
この記事のまとめ
- ご祭神は大国主神・伊邪那岐・伊邪那美
- 本営の主祭神はオオモノヌシ。山の神は五行説において海上守護に繋がるとされた
- 御朱印は社務所でいただけるが宮司宅で声掛けする可能性大
参考文献
茨城県神社誌/茨城県神社庁
茨城県の地名/編:平凡社
wataがいま読んでいる本
マンガで『古事記』を学びたい方向け
神社巡りの初心者におすすめ
記事は筆者の主観が多分に含まれております。
誤解や情報が古くなっている場合があることをご了承ください。